Love or Like?

二人


いつもより早めに登校してみると、部室の鍵はまだ開いていなかった。
まぁ、そう遅くならないうちにやってくるだろう。それに早めに登校したのはわざとだ。
新開は壁にもたれながらポケットからパワーバーを取り出し、視線を校門の方へと向けた。ちらほらと朝練のために登校してくる生徒たち。

――さぁて、鍵を持ってくるのはどっちかな?


少しずつ登校してくる生徒が増え、静かだった校内に活気がつき始めてきた。今日の鍵当番はたしか東堂だったはず。だが、昨日部室を出た時、鍵は棚の上に置き去りにされていた。そして最後に残ったのは。そのままが持ったままなのか、東堂の手に渡っているのか……。
パワーバーの最後の一口を食べ終えた時、ようやくその答えがわかった。

―― そうか。そうきたか。

校門から真っ直ぐこちらへ向かってくる影は二つ。と東堂は肩を並べて歩いていた。

―― うまくいったみたいだな。


「おはよう、お二人さん」
「おはよう……ではないぞ新開!!」
「そうよ。どのツラ下げてそこに立っているのよ!!」

あたたかい気持ちで出迎えようと思っていたが、二人からの第一声は罵声だった。
は鞄から鍵を取り出し部室を開けると、三人は順序よく中に入る。部室の中は空気がこもっていて熱く、堪らず新開と東堂は窓を開けて空気を入れ替えた。

「いい加減、機嫌を直してくれよ二人とも」
「うるさいばか。大方、どっちが先に登校してくるか見たくて朝早く来てたんでしょ」
「悪趣味だな」

ばれてたか。

「でも、二人で並んで登校してきたってことは、うまくいったんだろ?」
「……」
「……」

時が止まること数秒。沈黙に耐えきれず先に声を上げたのは東堂だった。

「訊くなっ、察しろっ!!」
「そうよ、ばか! それでお膳立てしたつもり!? 余計なお世話ってもんよ!!」

昨日までの暗さはどこへ行ったのやら。二人の威勢のよさに新開はたじろいだ。でも、これが本来の二人の姿なのだろう。正直このお膳立ては賭けだった。細い細い綱渡り。何かひとつでも間違っていたら今のような結果になっていなかっただろう。


「でも、余計なお世話を焼いてくれてありがとう」

は急に声のトーンを下げて照れくさそうに言った。

「新開くんがあの時にあのタイミングで靖友と尽八を呼び出してくれなかったら、私は素直になることはできなかったと思う。してやられた感じがして本当は悔しいけど、感謝はしているの。ありがとう」
「ま、おめさんたちはあのまま放っておいても進展なさそうだったからな。見ているこっちがイライラするくらいに」

さっさとくっついてしまえばいいものを、ときっと誰もが思っていた。でもそれは仕方ないことだったのかもしれない。は荒北のことが引っかかっていて自分の気持ちを認めるのに時間がかかった。東堂も荒北のことが引っかかっていて前に進むに進めなかった。結局、二人にとって荒北が邪魔だったというわけだ。……気の毒だな。

「それにしても、”尽八”か……。いったい一晩の間に何があったんだろうな」
「え、あ、いや……あれ? 私今下の名前で呼んでた!?」
「からかうなよ新開」
「いや、からかうつもりなんてないさ。ただ、お膳立てした甲斐があるなと思ってな」

はほんのりと頬を染めて慌てふためいていた。入部当初のはとにかく笑わなくて、能面だと思っていた頃もあった。相変わらず性格のきつさは変わらないようだけど、今は表情をころころ変えている。きっとは言い知れぬ何かに囚われていたのだろう。そしてそこから連れ出したのが東堂。それを東堂に託したのが荒北だ。

「ただひとつ、訂正させてもらおうか。オレが呼びだしたのは尽八だけだ」
「えっ?」「はっ?」

二人の声が重なった。

「オレは靖友に、今からそっちに尽八が行くよ、とメールしただけだ」
「え、それだけ?」
「靖友が男子寮に入る前にUターンして女子寮に向かっていくのをたまたま見かけて、確証はなかったけど、なんとなくちゃんに会いに行ったんじゃないかと思ってね」
「じゃあ靖友は……」

と東堂は顔を見合わせた。


「チ―――――ッス」

何も知らない荒北が呑気にやってきた。

「ン? お前らナァニ揃いも揃ってマヌケなツラァしてんだ?」

―― それはキミのせいだよ、靖友。


―――――――――――――――
<完>
2014.08.17
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