関東甲信地方 梅雨明け
昨日くらいのニュースでそんなことを言っていた気がする。夏は一年の中で一番きらいな季節だ。


「ん」
「あれ?」

ありがとうございました〜。
そんな店員のお決まりなセリフを背中に、ちょっと大きめな袋をぶら下げてコンビニを出ようとした時だ。両開き扉を互いに開けて、外に出ようとする者と中に入ろうとする者。顔を見合わせて同時に声を上げた。


「東堂くん」

夜の七時。まだ陽は沈みきっていない。日中ほどの暑さはないけれど、お世辞にも過ごしやすいとは言えない気温。むしろ日中よりも蒸し暑くなっているんじゃないの? ってくらいの気持ち悪さ。けど、それもそのはずか。湿度は日中よりも夜の方が高いのだから、気温が大して下がらず湿度が上がればそりゃあ気持ち悪くもなるわ。今日の夜もきっと寝苦しいんだろうなぁ。やっぱり夏はきらいだ。

それで少しでも暑さを紛らわそうと、コンビニへアイスを買いに来た。会計を済ませて帰ろうとしたら、クラスメイトと遭遇した。←イマココ。

とはいえ、ここ箱根にコンビニなんてそうそうあるわけじゃないから、クラスメイトと遭遇すること自体は珍しくない。むしろ、寮生活をしていれば、寮から一番近いコンビニで学校の知り合いと遭遇するのは偶然でも何でもなく必然に近い。それでも彼と遭遇するのは初めてだった。

「東堂くんも買い物?」

言ってから気づく。コンビニに買い物以外何しに来るというのだろうか。
それでもさほど気にしなかった東堂は、「あぁ」と一言だけ残して店内へと吸い込まれていった。店の外へと出たは、東堂の背中を視線で追いながら、袋の中からアイスを取り出しビニルを破った。夏の定番、スカイバーだ。
東堂の買い出しは目的のものが決まっていたようだ。早々に会計を終え、ものの三分ほどで出てきた。

「ん、何をしているのだ?」
「アイス、食べてた」
「いや、そういうことではなくてだな」

素直に「待ってた」なんて恥ずかしくて言えない。そういうのは察して欲しいものだ。話をごまかすかのようには袋の中からもう一本アイスを取り出し、東堂に差し出した。

「あげるよ。たくさんあるから」
「いいのか? すまないな。ありがとう。ところでその袋の中身は何が入っているのだ? まさかとは思うが、全部アイスということは……」
「そのまさか」

は袋の口を大きく開けて東堂に見せた。

「……」

今、こいつおかしいんじゃないか。って思ったよね。絶対。そんな顔して言葉を失っている。

「でも今日はアイスだけじゃないよ。油性ペンも買った」
「油性ペン?」
「これはアイスと同様に夏の必須アイテムよ。寮には共同の冷凍庫しかないでしょ。これで名前を書いておかないと無くなっちゃうのよねぇ」
「……」

結局はアイスのためじゃないか。今度はそんな風に思っているような顔している。

「アイスは夏の正義よ。これがないとわたし死ぬから」

食べ終えたアイスの棒を東堂にピッと向けながら、はさもカッコよく言い放ってみせた。今さら変なヤツだって思われたって痛くも痒くもない。そんなことは百も千も承知だ。そんなことよりも、実はは東堂尽八のことが好きかもしれない。ということを知られる方が一万倍痛い。だからここでこうして遭遇できたことに、大げさなくらい心が躍っているということは、当然、秘密事項だ。

「さぁ、帰ろう。東堂くんは明日も朝から部活でしょ? こっそり応援してるから」
「なんだそれは。こっそりではなく堂々と表に出て応援すればいいではないか」
「いやよ。恥ずかしいもの。そういうのは東堂くんの親衛隊にお任せするわ。わたしは影から見守る方が好き」


七月。夏の夜。金曜日。
そんなある日の出来事。

七月、夏の夜、金曜日



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夏に更新が多いのは、私の気持ちに余裕が生まれるのがたまたま夏に多いだけです。たぶんきっと。と言っても、ちゃんと更新するようになってからまだ一年弱なんですけど。
2015.07.25